名工大 D38 同窓会

名工大 D38 同窓会のホームページは、卒業後50年目の同窓会を記念して作成しました。

 管理者     
前田・宮口・三山
随筆

グリューネヴァルトの磔刑図、鈴木直久

(原稿で頂いたWORD文章中の写真がコピペでWordPressに取り込めず、写真を一度Word文章から別途画像出力して、この原稿に挿入する段階で、最初にある写真以降の文章をコピペ忘れして、読者の皆さんにご迷惑をおかけしました。   管理人)

私は音楽評論家として知られる吉田秀和のフアンであり、現役時代には公立図書館から全集などを借りてきて読んでいた。自宅の二重書棚には現在もなお氏の文庫本が二十数冊並んでいる。先日何気なくチェックして、通読した印のないものが数冊あることに気付いた。そこで終活の一環としてでは吉田さんに失礼かもしれないが、それらを通読することにした。

そして現在「音楽の旅・絵の旅」を読んでいる。それは1976年に行った3ヶ月のヨーロッパ旅行の旅日記の体裁をとって書かれている。氏は絵画にも造詣が深い。

 

そのなかに「グリューネヴァルト体験」という一文がある。わたしにもささやかな「グリューネヴァルト体験」があることを思い出したので、まずそれから書いてみたい。

 

1989年10月に、ワシントンDCにあるナショナル・ギャラリーを二日間訪れる機会に恵まれた。

しかし全く予期しないことだったので事前調査ができず、やむなく中世のイタリア美術から近代までの多くの絵画展示室を順番に巡った。

 

そのうちにキリストの磔刑図の前で足が止まった。小さな画面ながら、情け容赦なく無残に傷つけられたキリストが、執拗極まりなく写実的に描かれている。見るものに訴える力が尋常ではない。これほど痛ましい十字架上の死んだキリストの姿はないにちがいないと思った。そのようなキリストの磔刑図を見たのは後にも先にもその一度だけである。

小磔刑図(ワシントン・ナショナル・ギャラリー)

画面に向かって右手に立つのは洗礼者ヨハネ、左手のそれは聖母マリア、そして地面に膝くのはマグダラのマリアである。

それを描いた画家がドイツのグリューネヴァルト(1465年頃-1528年)であることを帰国後に確認したが、今日その作品の大きさを調べてみて、わずか61.6×46㎝しかないことに改めて驚いた。もっと大きかったと記憶していたからである。作品の迫力がそうさせたとしか考えられない。

 

この作品は1420-1425年頃描かれたもので、バイエルンのヴィルヘルム公が愛蔵したと伝えられる。彼の作品は、わずか12点程度しか知られていないこと、ドイツ、フランスおよびスイス以外に所蔵されているのはアメリカのこの1点のみであることも今日ネットで調べて知った(グリューネヴァルトと芸術家列伝の二語を入力すると一覧表が表示される)。

 

ついでに付記すれば彼はより有名なデューラーと同じ 1628 年にペストのために死んだ。

 

さて吉田さんの文章に戻ることにする。

 

氏は旅行中ドイツ南西部のシュヴァルツヴァルト(黒い森)の周辺に住む知人宅に暫く滞在し、その間に知人の車に同乗して国境を越え、アルザス地方の古い町コルマールに行って、ウンターリンデン美術館で、グリューネヴァルトが描いた「イーゼンハイムの祭壇画」を見た。「グリューネヴァルト体験」はそのことを意味する。

 

その祭壇画は彼の代表作であるから、画家の名前を知る人は100パーセントがこの作品を先ず思い浮かべるにちがいない。

それは観音開きで開くことができる三面の絵とそれらの下に袴のように取り付けられたブラデッラと呼ばれる絵一面で構成されている。そして現在は三面の絵が切り離されて横並びに展示されているから見学者はありがたい。

第一面の中央にキリストの磔刑図がある(次ページ)。

イーゼンハイムの祭壇画(第1面とブラデッラ)

 

吉田さんは全ての画面について詳細に紹介してくれているが、わたしの小文は磔刑図体験がテーマであるから、ここでは磔刑図が描かれている第一面だけを紹介することにしたい。他の二面の絵もネットで簡単に見ることができるから、興味のある方はご覧いただきたいと思う。

 

さて、第一面の中央の磔刑図の大きさは、265×304㎝だから上述の小磔刑図よりはるかに大きい。寸法が大きいのは礼拝堂の祭壇画として描かれたからであろう。

 

この祭壇画は小磔刑図よりも先に1511から1515年頃に描かれたとされる。わずか4,5年の差である。その間隔はわずかなものであるから両作品には寸法以外に際立った差はないように思われる。もっとも上に触れた作品リスト中のキリストはいずれも非常によく似ている。この画家にとってそれがキリストの絶対イメージなのであろう。

 

この祭壇画の磔刑図を小磔刑図と比較すると、後者にはない使徒ヨハネ(聖母マリアを支えている)と子羊が加わり、また洗礼者ヨハネの右手はキリストを指している。吉田さんはそれらの配置について主に構図の観点から解析しているが、小磔刑図と比較できるわたしの目には、制作の依頼者の希望によるものかもしれないが、祭壇の画面の方がはるかに大きいので、そのようにしないと間が持たないからだとも思えてくる。

それから小磔刑図の聖母マリアの着衣が暗いのに対して祭壇画の方は明るい白一色である。それは明らかに、画面にアクセントをもたらすとともに、聖母マリアを際立たせるために意図されたものであろう。

文章が尻切れトンボになって申し訳ないが、巨大なワシントン・ナショナルギャラリーの一隅でのささやかな体験が、フランス東部の見知らぬ由緒ある田舎町の、有名な祭壇画と結びついたことに満足している。

山本雅晴さんの「2019年美術・博物館・遺跡巡りのまとめ」を読んで

新年から福田さんのメールアドレスが不通になっています。どなたかご存知の方はご連絡ください。プログラムのセキュリティーの観点からPHP5.6からPHP7.3にバージョンアップしました。また、WordPress5.3.2にバージョンアップしました。 これでgallery-maeda.comと同様に最新の環境になっています。

ではごゆっくり鈴木さんの投稿をお読みください。2020/01/02   管理人 前田

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明けましておめでとうございます。

本年もよろしくお願いいたします

2020.01.01    鈴木直久

山本雅晴さんの「2019年美術・博物館・遺跡巡りのまとめ」を読んで感想をまとめました。

まとめの他に訪問先リストをいただいたので、併せて読むと、相変わらず活発に活動されたことが分かる。

コメントとしては長くなりそうなので、特に関心を持った項目について、別途所感としてまとめ、D38同窓会HPに投稿することにしたい。

1)南フランスの美術館と早春のフェスティバル

旅行記を読ませていただいた。一部の場所は訪れたことがあるので懐かしかった。

2)シルクロード

思い返せばわたしも若いころシルクロードにあこがれた。

井上靖の「敦煌」などやヘディンの「さまよえる湖」などを読んだ。

NHK特集シルクロード(1980年から翌年にかけて放送された)を見たし、それが本になったので、買って読んだ。いわゆる「シルクロードブーム」は、その番組が火付け役になったようだ。しかしその後わたしの関心は他の分野に移ってしまった。

今回旅行記を読ませていただいて懐かしく、NHK特集シルクロードの本を図書館で借りてきて再読した。何しろ約40年前の記録であるから、シルクロードの状況も大きく変化しており、旅行記と比較して読んで興味深かった。

3)国立西洋美術館の開館60周年

山本さんの文章を読んで、今年が開館60周年であることを知った。彼は開館した年にいち早く訪れたが、わたしはその翌1960年の秋上京して、病気の祖母を見舞った折に初めて訪れ、開催中の「20世紀フランス美術展」を見た。デュフィの作品に特に魅せられた記憶がある。またロダンの彫刻作品群に衝撃を受けた。ル・コルビュジエが設計した建物は非常に斬新だと感じた。

4)ギュスターヴ・モロー展

大阪のあべのハルカス美術館で見た。「出現」を見たのは初めてだったが、やはりそれは代表作の一つだと納得した。ただわたしにとってモローといえば「一角獣」である。

1961年11月、三山さんと二人で、東京で一泊、往復夜行の強行日程で二日かけて東京国立博物館で見た、画期的な大展覧会「ルーヴルを中心とするフランス美術展」で初めて見たモローの作品なのである。しかも翌年名古屋に来たモロー展で再び見たから、今回が三度目だった。

オルセー美術館で見た「オルフェウスの首を抱くトラキアの娘」も素晴らしかった。

モローはデッサンの名手でもあることを知った。

5)東京都現代美術館

今年リニューアルオープンしたことを知った。その記念展について、山本さんは、「日本の近現代美術では国内で一番作品の充実している所だと思うが、画家個人、個人の作品が羅列的でまとまりがないように思えた。」と書いている。この美術館には二度行ったことがある。所蔵作品とその展示方法について、山本さんと同じような印象を受けたことを思い出す。

6)滋賀県立近代美術館のリニューアル問題

わたしが住んでいる大津市にある美術館であるが、ご指摘のように今年工事の入札が成立しなかったばかりか、計画自体が凍結されてしまった。滋賀県にはびわ湖ホールという立派な多目的施設もあるが、それも赤字運営のはずであり、県はいずれにも大きな財政負担を強いられている。

7)コートールド美術館展

1997年に日本橋高島屋で見て感動した。今回も内容はほぼ同じだったという。マネの最晩年の《フォリー=ベルジェールのバー》など、印象派の傑作が目白押しであった。

8)オランジュリー美術館の作品展

パリでこの美術館に入ったことがあるし、前回文化村ザ・ミュージアムで開催された時に見た。山本さんの感想に同感する。彼が言及した画家の他に、スーチンとドランの作品が充実していると思う。

9)吉野石膏コレクション展

この展覧会を見ていないが、以前に同社が所有するモネの「チャリング・クロス駅とテームズ川」(W1536)を二度見たことがある。

現役時代に住んでいた足立区の社宅の道路を隔てた南側に同社の東京工場があって、絶えず白煙(石膏ボードを焼成するときに発生する水蒸気ではなかろうか)を出していたので親近感?を持っていた。それはともかく従業員数が900人にすぎない一建材メーカーが高価な美術品を多数所有することが不思議だった。過去のトップが余程の美術好きだったからだとしか考えられない。

もっとも日本には美術品を多数所有する大企業の数は多い。ある生命保険会社の本社のロビーにはクールベの大作が飾られていたし、応接室や廊下には、誰が描いたか瞬時に分かる、人気のある西洋画家の、しかも立派な作品が多数飾られていた。社員に尋ねたら、地下に収蔵庫があり時々入れ替えるとのことだった。またある著名なメーカーの応接室も似たような状況だった。これは日本の企業特有の現象だろうかと思ったものである。

10)後藤純夫の全貌展 後藤純夫について

山本さんが好きだというこの画家について全く知らなかった。記憶しておこうと思う。

11)公立施設の入場料の年齢優遇について

関東は様々な公共施設で年齢優遇が進んでいる。東京国立博物館と国立西洋美術館および千葉県立美術館は65歳以上無料であることを知った。

関西にそのような施設はないと思い込んでいたが、京都と奈良の両国立博物館の常設展示室は70歳以上が無料であることを教えていただき、ありがたかった。

12)わたしが見た展覧会

本題から外れるが、最後に今年出かけた展覧会について触れておきたい。

国宝一遍聖絵と時宗の名宝(4月23日(前期)と5月29日(後期)、京都国立博物館)、ギュスターヴ・モロー展(9月17日、あべのハルカス)および円山応挙から近代京都画壇へ(11月30日(後期)、京都国立近代美術館)である。

ギュスターヴ・モロー展については、4)項で触れた。

国宝一遍聖絵と時宗の名宝展

国宝の一遍聖絵(一遍上人絵伝)は、時宗の開祖一遍を描いた絵巻である。全12巻を

前期と後期に分けて展示する画期的な展覧会だった。時宗の名宝と併記されているが、聖絵以外は付録のようだったと思う。

絵画としては一遍を中心とする群衆を生き生きと描いていることが最大の特徴である

が、風景描写も優れている。

巻七のみを東京国立博物館が、他を清浄光寺(神奈川)が所蔵するが、何回も見たこ

とがあるこの巻の描写が最も優れていると思う。

なお、同じ巻には私が住む大津市にあった関寺(現在の長安寺)の様子も描かれている。

円山応挙から近代京都画壇へ展

応挙の作品については、2003年に大阪市立美術館で見た特別展丸山応挙のほうが充実していたが、今回の展覧会には、彼から竹内栖鳳らの近代の京都画壇までの画家の人脈と作品を紹介するという意義があった。

以上