名工大 D38 同窓会

名工大 D38 同窓会のホームページは、卒業後50年目の同窓会を記念して作成しました。

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前田・宮口・三山
2019年美術・博物館・遺跡巡りのまとめ 、山本 雅晴

2019年美術・博物館・遺跡巡りのまとめ 、山本 雅晴

 今年も特定のジャンルや場所を決めずにあちこちの美術館や世界遺産・社寺を120件ほど巡った。国内の美術展は百花繚乱で西洋美術の内容のある展覧会も多かった。2月下旬に南フランスに行き、ニースのマティス美術館やヴァンスのロザリオ礼拝堂、カーニュ・シュル・メールのルノワール美術館、エクサンプロヴァンスのセザンヌのアトリエなど今まで行っていない美術館や展示品を見ることができた。また、10月下旬に念願の「シルクロード」を訪れることができ玄奘三蔵の辿った風景の一部や平山郁夫の描いた場所を多少とも理解できたのは収穫だった。 今年見た美術館・博物館・世界遺産・寺社などを抜粋して簡単にレヴューします。

 

Ⅰ、2019年の美術館めぐりのまとめ

1、南フランスの美術館と早春のフェスティバル:旅行記としてまとめたので詳細は省略。

1)マティス美術館(ニース)とマティス関係の美術作品について:今年はマティス生誕150年になるので小生なりにまとめようと思い伝記や作品の調査を行なっているが未完成で来年以降に継続となった。今年見たマティス作品は国内外で約50点。

2)ルノワール美術館と庭園:ルノワールが晩年の十数年リュウマチと戦いながら絵を描き続けたカーニュ・シュル・メールの樹齢数百年のオリーブの茂る小高い丘にある邸宅・アトリエが美術館となっている。各部屋にルノワールと友人の絵・彫刻・工芸品が展示され自由に鑑賞できた。スッキリ晴れ渡った早春の庭は時間を忘れてしまいそうな居心地の良いところだった。

好々爺のルノワールのもとには南仏にアトリエを構えるマティスがボナールと度々訪れたらしい。かの気難しいセザンヌとも交友があった。

3)エクサンプロヴァンス:松の木とアーモンドの花咲くレ・ローヴの丘のセザンヌのアトリエを初めて訪れ数多の作品に使用されたりんごなどの果物やビン・壷・石膏像のある部屋を見た。また、見晴らしの良い丘からは小さいサント・ヴィクトワール山もくっきりと見えた。

短時間の休憩時間に彼の地の「グラネ美術館」本館を初めて訪れた。セザンヌの小品が10点ほど展示されていた。偉大なる画家セザンヌの故郷にしては寂しい展示であった。

 

2、国内の西洋画・彫刻などの展覧会

1)国立西洋美術館:本年開館60周年の記念の年である。振り返ってみれば、大学に入学した開館の1959年の夏休みに従兄弟に案内してもらって訪れていた。それ以来約80回くらい訪れている。このメモリアル・イヤーの展示会があった。

① 林忠正(1853~1906)の功績紹介展(2019-2-19~5-19):西洋で日本美術を商った初めての日本人で、1878年のパリ万博の通訳として渡仏し、ジャポニズムの隆盛に大きな役割を果たした。浮世絵や工芸品を扱う商社を経営・紹介する一方、松方幸次郎に先立つ25年前に西洋美術を収集し西洋美術館建設を夢見ていた。しかし、その構想は林の帰国と早すぎる死によって実現しなかった。これらの経緯を資料と作品を基に紹介している。日本における西洋絵画館の歴史を知る上には時宜を得た展示会であった。

松方コレクション展(2019-6-11~9-23):「松方幸次郎のコレクションの形成と散逸」について徹底的に調査し、それをカタログレゾネとして昨年出版された。この内容を拾い読みしたが、今まで不審に思っていたいくつかの疑問が解けた。その一つは松方コレクションの形成時にマティス作品がたくさん出回っていたのに国立西洋美術館に一点もないことだった。実際には6点収集していたがコレクションをナチスの略奪から逃れるためパリから寒村に移動させる必要があった。その費用を捻出のため売却した。6点のコレクションのすべてはまだ分かっていないが、そのうちの1点がバーゼル美術館の所有で今回展示されていた。

モネ作品はモネのジヴェルニーの住居兼アトリエまで行って直接購入している。一時は30点近く収集したが国内外で散逸の憂き目にあい、現在の国立西洋美術館にはその約1/3しか残っていない。また、ロダン彫刻の購入も綿密かつ大胆で松方の人柄を表しているように思われた。まだまだ興味が尽きないが割愛する。

2)クリムトとウィーン・モダーン展

① 東京都美術館:「クリムトとウィーンと日本1900年」(2019-4-23~7-10) 老若男女問わず何故かクリムト人気は大変なもの! 26年前の夏にウィーンのオーストリア美術館で初めてクリムト作品を見に行ったときは人影もまばらだった。今回は何点かの目玉作品と宣伝効果もあり大盛況だった。分離派会館の「ベートーベン・フリーズ」の精巧な原寸大複製(2.2×34.5m) 壁画が展示されていた。東京都美術館での展示方法もうまく、見栄えのするカタログも好評であった。

② 国立新美術館:「ウィーン・モダン~クリムト・シーレ世紀末への道」(2019-4-24~8-5)

18世紀半ばからの啓蒙主義時代から19世紀末・20世紀初頭のクリムト・シーレに至る社会情勢の変化、絵画・彫刻・工芸や文学・音楽・建築・ファッションなど相互的かつ総合的に展示・解説してあり理解しやすかった。

③ 目黒区美術館:「世紀末ウィーンのグラフィック」(2019-4-13~6-9) 上の2つの展示会との三部作で地味であまり入場者は多くなかったが、企画者の苦労と努力のにじみ出た展覧会で好感が持てた。

3)印象に残った美術展

① 新・北斎展:森アーツセンターギャラリー(2019-1-17~3-24)

著名な浮世絵研究者で北斎作品のコレクターだった故永田生慈氏の北斎とその弟子の作品約1000点が島根県立美術館に寄贈され、そこでの一連の展覧会に先立って開催された。北斎の初期から晩年までの貴重な作品が展示されていた。

② ギュスターヴ・モロー展:パナソニック汐留ミュージアム (2019-4-6~6-23)

     パリのギュスターヴ・モロー美術館の所蔵品で初期から晩年までの油彩・ドローイングを約70点まとまりよく展示されていた。大作はないがパリの美術館では作品数があまりにも多く、ドローイングなど見るゆとりはなかった。

③ 東京都現代美術館:リニューアルオープン記念展「百年の編み手たち~流動する日本の近現代美術~」(2019-3-29~6-16) 約3年かけてリニューアルしバリアフリー化などかなりの費用をかけているようだ。日本の近現代美術では国内で一番作品の充実している所だと思うが、画家個人個人の作品が羅列的でまとまりがないように思えた。あまり好みではないが、現代美術はアメリカで見た「サンフランシスコ近代美術館」のように広い空間を個人に一室単位で展示する方が良いように思う。

東京都以外の予算のとれない美術館はリニューアルができず四苦八苦している。    例えば、京都市美術館は京セラから約50億円の資金援助を受け「京都市京セラ美術館」として来年度からまさにリニューアルオープンするらしい。滋賀県立近代美術館はリニューアルがペンディングとなっている。美術館などは約20年で設備のリニューアルが必要になるためこのようなケースがこれから頻出する可能性がある。

④ ドービニー展:東郷青児記念損保美術館(2019-4-20~6-30) ドービニー個人としての展覧会は今回が日本では初めてとのことである。ドービニーは印象派の画家たちやゴッホなどの画家にも影響を及ぼした。アトリエ舟を考案し川を移動し川から風景を描いた。モネはこれをマネした。ドービニーの作品がまとまった形で見られよい展示であった。

なお、この美術館は42階から地上に新設移転し「SOMPO美術館」と名称も変更し,2020年5月末に開館とのこと。

⑤ 文化村ザ・ミュージアム

・「印象派への旅~海運王の夢~」(2019-4-27~6-30) バレル・コレクションとして英国のグラスゴーの美術館に拠点おいている。19世紀半ばから19世紀末のフランス絵画と英国の画家の絵画80点の展示があった。あまり大作はなく印象のうすい展示会だった。

・「リヒテンシュタイン侯爵家の至宝展」(2019-10-12~12-23) ルーベンス・ルーベンス工房の絵画が4点、クラナッハが3点他風景画・花の静物画などと東洋およびウィーン製の良質の陶磁器・工芸品が多数展示されていて一応楽しめる展示内容だがインパクトに欠ける。

⑥ コートールド美術館展:東京都美術館(2019-9-10~12-15) 1997年に初めて来日した時と内容的にはほぼ同じでマネ、セザンヌなどのすばらしい作品を鑑賞することができた。

⑦ ゴッホ展:上野の森美術館(2019-10-11~2020-1-13) 大作は少ないが初来日の初期の作品が多い。ゴッホというネーム・ヴァリューで全日混んでいるようだ。

⑧ カラヴァッジョ展:名古屋市美術館 (2019-10-26~12-15) 札幌・名古屋・大阪と関東地区に来ない数少ないケース。真偽が不明なものも含めて10点近いカラヴァッジョ作品で、初見の作品も数点あった。それほど混んでなくてゆっくり鑑賞できた。

⑨ ハプスブルク家展:国立西洋美術館 (2019-10-19~2020-1-26) ウィーン美術史美術館の作品が主体でお馴染みのベラスケス作品が3点とブダペスト西洋美術館からのベラスケス初期作品「宿屋のふたりの男と少女」も来ていた。展示様式はハプスブルク家の各皇帝のコレクションの形成の歴史。この展示会もネーム・ヴァリューのせいか国内外の鑑賞者で賑わっていた。国内の有名展覧会は日・英・中・韓の4ヶ国語のタイトル表示となっている。

⑩ ブダペスト「ヨーロッパとハンガリーの美術400年」:国立新美術館(2019-12-4~2020-3-2) ハンガリー国立西洋美術館の作品とハンガリー・ナショナル・ギャラリーのハンガリーの画家の作品130点の展示があった。クラナッハ、ティツィアーノ、印象派数点とムンカーチ・ミハーイ(ハンガリーの著名な近代画家)数点。やや焦点がなく希薄に思えた。

⑪ オランジュリー美術館の作品展:横浜美術館 (2019-9-21~2020-1-13) 20年前にもほぼ同じ作品展が文化村ザ・ミュージアムであり鑑賞している。日本人好みの画家の作品が多く何度見ても楽しい。ルノワール:8、セザンヌ:5、マティス:7、ピカソ:6 等々。

⑫ 吉野石膏コレクション展:三菱一号館美術館 (2019-10-30~2020-1-20) 山形美術館での委託展示や文化村ザ・ミュージアムでの展示会などでも見ているが、その後の入手作品?のゴッホの「白い花瓶のバラ」は初見だった。作品の内容はオランジュリー美術館と類似しており日本人好みである。

⑬ 大浮世絵展:江戸東京博物館 (2019-11-19~2020-1-19) 5年ごとに開催される国際浮世絵学会に合わせて開催されている。今回は5大人気浮世絵師の歌麿、写楽、北斎、広重、国芳の代表作品を世界の美術館から集めて展示している。展示替えが数回あるため前・中・後期と見る予定。今までにも浮世絵はたくさん見ているがこれで打上げにするつもりです。

なお、今年の浮世絵展では東京国立博物館で、松方幸次郎がパリでまとめて買い取り国に寄贈した約8000点のうち約120点を選び4期に分けて展示されたので鑑賞した

⑭ 薬師寺:2017年に完成した食堂の田淵俊夫の50mに及ぶ壁画「阿弥陀三尊浄土図・仏教伝来の道と薬師寺」は繊細な線と水彩画のような淡い色彩で平山郁夫の「大唐西域壁画」の油彩画的な重厚さと好対照だった。シルクロード訪問の締め括りとして再度見学した。

⑮ 後藤純夫の全貌展:千葉県立美術館 (2019-11-2~2020-1-19) この人は僧侶の家に生まれ、僧侶としての修行をしながら画家を志し日本画家となった。画題は平山郁夫に近く、多分あまり知っている人はいないと思うが、私は好きで以前から何度か展覧会を見ている。また、十年前に上富良野にある後藤純夫美術館を訪問した。中国の山河や北海道・奈良などの自然や寺院を綿密かつ大胆に描いた大作が多い。今回は初期の作品から晩年(2016年に死去)の作品まで展示されていた。千葉県は文化後進県で本美術館はあまりよい企画展がないので久しぶりに訪れた。数年前にリニューアルし、照明もよくまた、天井も高く大きな部屋もあり襖絵などの大作を見るのに適していた。このような良い展示会で65歳以上は無料だと聞いて改めて見直した。近くの人で関心のある方は是非見てください。

⑯ 東京国立博物館:年間12回ほど見ている。常設展示は65歳以上は年齢の証明書で無料です。国宝や浮世絵などは毎月展示替えがあり、他の展示品も3~4か月で展示替えする。

上野に行ったら気楽に立ち寄る。また、国立西洋美術館も常設展示は65歳以上は無料です。

 

今年の小生の分野別ベスト・ランキングは以下の通りです。

1、油彩画・西洋画

① マティス美術館(ニース) & マティス・ロザリオ礼拝堂

② 国立西洋美術館:「松方コレクション展」

③ 東京都美術館:「クリムト展~ウィーンと日本1900年~」

④ 名古屋市美術館:「カラヴァッジョ展」

⑤ 東郷青児損保ジャパン美術館:「ドービニー展」

⑥ パナソニック汐留ミュージアム:「ギュスターヴ・モロー展」

⑦ 上野の森美術館:「ゴッホ展」

⑧ 東京都美術館:「コートールド美術館展」

⑨ 横浜美術館:「オランジュリー美術館展」

⑩ 三菱一号館美術館:「吉野石膏コレクション展」

 

2、日本・東洋の美術・遺跡・その他

① 敦煌・莫高窟と周辺の遺跡および鳴沙山・月牙泉

② 高昌故城とトルファン周辺の遺跡

③ 西安城壁 & 大雁塔と兵馬俑坑博物館

④ 江戸東京博物館:「大浮世絵展」

⑤ 千葉県立美術館:「後藤純夫の全貌展」

⑥ 森アーツセンターギャラリー:「新・北斎展」

⑦ 東京国立博物館:「正倉院の世界 展」

⑧ 渋谷区立松濤美術館:「久保惣美術館所蔵 日本・東洋 美のたからばこ 展」

 

以上

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