Ⅲ
7.職員会議
この学校では、教員が一堂に会するいわゆる職員室がなく、各担当科目の教室ごとにその専門科目の教師の席がある。生徒は授業ごとに、教室を移動する。
月に1回の全校教師への連絡事項や相談事の会議には図書室が使われ、4,5人のテーブルに、思い思いの格好で席につき、職員会議が開かれる。何人かの教師が連絡事項を話す。それに対して質疑応答が行われる。改めて感ずるのは、実に多くの先生が発言することである。ざっと見ても60人くらいの職員で、半数以上が何らかの発言をし、ジョークを交え、最後に笑いを誘う全員参加型の会議であった。
この時間を利用して、あるときは外部の専門家を招いて、生徒の悩み、犯罪、性、麻薬などに関してどう指導し、向き合っていくかの講義があった。いかに早く問題を見つける感性を働かすかが重要だと。
聴講者の反応を見ながら進める。講師が理解を確かめるような質問を投げかけて、答えが返ってくる。すると「ご名答!!」とばかりにチョコレートを投げつけ、和気あいあいに進める。実にリラックスした講義だった。
8.モンスターペアレント、親の過保護
ここでもモンスターペアレントがいる。「うちの娘が赤点をもらった。早く追試をして及第点を与えてくれ」と電話がかかってる。当の本人も「先生、いつ追試してくれるのですか?」と、あっけらかんとしている。
日本で言う「父兄参観日」もあって、父親か母親が学校の授業参観にやってくる。その時、母親が「家で先生のことを食事の時に話題にしてたのよ。お世話になっています」まではよいが、「うちの娘は我がままで、しょうもないのよ」と。その娘は、母親のいる前で、教室の床にベタッと寝っ転がっていたこともあった。天真爛漫であるが、いい歳して子ども扱いである。
また、ホストファミリーの婆さんは、自分の孫に会うごとに100ドル札をポケットにそっと忍ばせていた。
また、教育にも関心が高く、先生を自宅に招くほど付き合いもホットであった。
アメリカへ移民して来るファミリーは、一代目はとにかく頑張る、二代目まではまあ頑張る、三代目はアメリカの豊かさに慣れて、ダメになるというのが普通の様である。どこも同じか。
ホストファミリーの婆さんも、娘婿が弁護士資格を取るまでは、娘の家庭を婆さんが支えていたと言う。そして、「今の若い者は苦労してないのよ、私はこれまで苦労してここまできたのよ」
9.食事
我がホストファミリーは、割に細かく面倒も見てくれたし、料理もそれなりに心こもるサービスをしてくれた。
でも一般の家庭はどうだろうか。日本語の練習で「昨日は何を食べましたか?」生徒は、チョッと考えて「昨日はピザを食べました」「昨日はスパゲッティを食べました」と答えが返ってくる。どうも本当らしい。
日本のように、メインディッシュに さらにもう一つ、二つ、それに味噌汁、漬物とつけるのは当たり前である。やはり日本の食事は豪華である。
アメリカ人が言う。日本の家庭を訪問した時、「私のためにこんなにご馳走していただいて!!」「これが普通の毎日です」と言って驚いたと。日本人がアメリカの家庭に招かれて、日本人は「大きな広い家ですね!」「いや、これが普通です」と、対照的である。
それにアメリカの一般家庭の食器、皿やカップなどは、大体白地でなんの変哲もない。日本での食器の華やかさ、これはもう芸術である。
改めて思う、日本の食事、その素材の地域ごと・季節ごとの豊富さ、肉、魚と植物性タンパク質などのバランス、料理法(和・洋・中、それに地域ごとのエスニックなど)、味のバラエティ・深さ(微妙なうま味)、加えて食器の彩・はなえかた なんという素晴らしさだろう。日本料理こそ世界に誇る世界の料理ではないか、立派な文化ではないか。むしろ。芸術である。日本料理が世界の無形文化遺産に登録されて10年以上になるが、もっともっと知ってほしい。知らせるべきである。
その代わりか、アメリカのスーパーマーケットには、パンなどにつけるジャムや、サラダや他のディッシュにつけるドレッシングは実に豊富である。
食品売場には寿司がパックに入って売られている。酢飯に海苔を巻いてなんでも乗っければお寿司である。とても買う気がしない。しかも高い。
ファーストフードでアジアのメニューが売られている。意外に人気があるのが理解できる。
10.レート
僕が行った時は、1$=90円前後であった。もうよかろうと思ってドルを買っても、さらに90円を切ることがあった。それが今はどうだろう、150円にもなっている。どう見ても1.5倍である、それに世界的な物価高で、それを合わせると、2倍にはなりそうである。今だったら大変だ、良い時に行ったと思う。
ちなみに、ここでの電気代(kwh当たり)は、当時のレートで日本の約三分の一、安い。教室は寒いくらいにエアコンが効いていた。ここの例だけで考えると、ちょっと節約すれば、10%、20%のエネルギー節約は簡単にできそうである。やはりエネルギー消費大国である。車に関しても同じだろう。
11.おおらかさ
ホストファミリーの婆さんが学生時代の同窓会があると言って、車で600㎞くらい先に出かけ、3日間家を留守にして僕一人になった。その間、愛犬は30㎞離れた娘の家庭に預けた。食品類の倉庫、冷蔵庫など、なんでも自由に使ってよい。すぐ隣の家の若奥さんには(子供二人もち)、「出かけている、日本人がいる」と挨拶はしておいたと。信じられない、全くの他人、しかも外国人の僕を一人おいて留守にする。自分だったら、姉・弟まではおいて出かけることはあったとしても、赤の他人をおいて出かけるなどありえない。勿論、僕を信じての結果であろうが、やはり信じられない。なんというおおらかさであろう、自分の小ささを恥じた。
ちなみに、彼らは現金を持たない。ほとんどがカード払いである。「現金を持つのは、100ドルまでだよ」と忠告してくれた。
同じことか、びっくりしたことは、ホストの孫の学友が遊びに来る。すると、その家の冷蔵庫を勝手に開けてドリンクなどを飲む。同様に学校の先生がホストファミリーの家に最初僕を迎え入れるのに挨拶に行く。その時でも、勝手に冷蔵庫を開け、ビールを飲むし、こちらにも振り舞う。日本のマナーから考えられることだろうか。その先生の家を僕が訪ねた時は、冷蔵庫からまるでお茶を出すように、ポンポンとビール瓶のふたを開け、サービスしてくれた。
ホストファミリーの娘の家庭で(ホームパーティの一つ)僕が料理をして振り舞おうとしたとき、孫娘の友達は、高いシンクの流しに腰を掛けて待っているという光景、どうみても日本のマナーとは違うな。
ついでにもう一つ。この滞在の翌年3月には、東北大地震・原発事故があった。ホストファミリーからしばらくしてメールで見舞いが来て、「Mr.山田は大丈夫か?危ないから、こちらに引っ越してきなさい」と。アメリカの広さから比べると、僕の家と福島との距離は、点に近いと思って放射線被ばくを心配してくれたのだろう。「問題ない、大丈夫だ」と伝えると、さらには、「家族全部引っ越してきなさいよ」と。
「LASA高校で寄付金を集めたが、どうすればよいだろう?」との問い合わせもあり、日赤を紹介した。その気遣いに感謝し、うれしかった。
ホストファミリーの話では、アメリカでは年収の10%、20%を寄付するのは、普通のことだと。
ホストは、身障者に運転免許取得の指導もボランティアで行っている。「偉いなあ」とねぎらうと、「忍耐(patience)あるのみ」と。
少しそれるが、ホストファミリーの近くで、毎日決まった時間に車を出して出勤していた。ある日、帰宅すると、家の中のモノが全部無くなっていた と。日本でも聞いたことがあるが、恐ろしい。