名工大 D38 同窓会

名工大 D38 同窓会のホームページは、卒業後50年目の同窓会を記念して作成しました。

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前田・宮口・三山
辻井伸行のピアノリサイタル、鈴木直久

辻井伸行のピアノリサイタル、鈴木直久

昨日、近くにある「びわこホール」で、「辻井伸行 日本ツアー《バッハ・モーツァルト・ベートーヴェン》」を聴いた。

人気が先行するピアニストであるという先入観を持っていたし、バッハのイタリア協奏曲、モーツァルトのピアノソナタ第17番そしてベートーヴェンの「月光」および「熱情」という大作曲家の人気曲ばかりを並べたプログラム構成にも疑問を持ったが、何分にも非常に人気のあるピアニストであるし、家内が予約開始時刻から電話のプッシュボタンを押し続けてチケットを確保することができたので出かけたのだった。

チケットは完売したから大ホールの1848席は満席のはずだった。確保した席は、舞台に向って左手2Fの第2列だから演奏家の手の動きをよく見ることができる。周知のように辻井は背が高くないが、手は大きいことを知った。その手によって予想したよりも大きく力強い音が弾き出された。

彼の持ち味は輪郭のはっきりした美しい音にあると思っていたが、そうではなくて、実際には大きく力強い音で分かりやすく演奏する熱演型のピアニストであることが、この日の演奏でよく分かった。「月光」の第3楽章も迫力満点だったが、続く「熱情」が圧巻だった。その反面、バッハでは明晰さが、モーツァルトでは優雅さが、そして「月光」の第一楽章では情緒が、それぞれやや不足すると感じたが、彼のような新進気鋭のピアニストに大家の演奏の風格を望むのは間違いだろう。

あれほど人気があるピアニストでありながら、聴衆の期待に全力で応えた演奏に感動した。2000人近い聴衆が静まり返って演奏に集中していたから、大部分の聴衆が同じ思いだったと思う。

アンコール曲は、ショパンの「別れの曲」、自作の「風の家」と続いたが、最後の、彼がアンコールでしばしば弾くリストの「ラ・カンパネラ」に、残っている全てのエネルギーが注ぎ込まれた。それ以上何を望めようか。拍手は鳴り止まなかったが、彼自らピアノの鍵盤の蓋を閉じて演奏に終止符を打った。退場する彼の顏には疲労が滲み出ているようで痛々しかった。

(2017/03/21     鈴木直久)

 

 

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