前報に続いてヤン・ファン・エイクの絵画の先進性について個々の作品について記述する。
「宰相ニコラ・ロランの聖母子」 1435年、ルーヴル美術館所蔵、2015-7-8,2016-3-16 2回鑑賞
フランス東部のブルゴーニュ公国のオータンの名門出身のニコラ・ロラン(1376~1462)は1422年にブルゴーニュ公国の宰相となった。百年戦争の和平会議が北フランスのアラスで1435年に開催された。この和平会議を取り仕切ったのは宰相ニコラ・ロランであり、外交官役としてヤン・ファン・エイクも善良公の命で出席している。アラス和平会議によりフランスのシャルル7世とブルゴーニュ公国が講和し、これによりブルゴーニュ公国とイギリスの同盟は破棄された。ブルゴーニュ公国の善良公と宰相ニコラ・ロランは思惑通りの決着となり、ファン・エイクも絵画を描ける時間を得た。この時、宰相ニコラ・ロランは60才になろうとしていた。自分の故郷の北東フランスのオータンの教区教会に寄贈すべくエイクに注文した。古代ローマの遺跡が散在するオータンの名門ロラン家の邸宅やブルゴーニュ・ワイナリーなどがある領地にエイクを呼び寄せた。そこで入念に「宰相ロランの聖母子」を完成させ、ニコラ・ロランは念願のオータンのノートルダム・ドゥ・シャステルへの献納を果たした。この絵にも今までと違ったトリックを入れた。図1に全体図を、図2に中央部拡大図を示した。
ファン・エイク私論4-ロラン聖母子
1.宰相二コラ・ロランの聖母子
ヤン・エイクの重要性に気付いたのは山本さんのおかげです。
ルーヴル美術館を何度も訪れながら、ファン・エイクが大画家であることを認識しないで、丁寧に鑑賞しなかったことが悔やまれます。
「宰相二コラ・ロランの聖母子」は数少ない彼の代表作の一つですから尚更です。
2.空気遠近法
この作品の遠景は空気遠近法で描かれています。
この絵画技法を知ったのも山本さんのおかげです。吉田誠治という方が「二つの空気遠近法」を紹介しています。一つはレイリー散乱で、遠くの物ほど青く見える現象です。湿度が低い欧米では遠景が青く見えます。もう一つはミー散乱で、空気の濃いところほど白く見える現象です。湿度が高い日本では遠景が白くかすみます。
3.追記
山本さんのヤン・エイクの紹介はまだ続いています。終わったら全体を読み返して所感をまとめてみたいと思います。
鈴木直久