名工大 D38 同窓会

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ベトナム語の表記について、鈴木直久

ベトナム語の表記について、鈴木直久

10月下旬、5日間でベトナムを縦断するツアーに参加しました。印象深いことが多かったのですが、それらのうち国語の表記について取り上げてみたいと思います。

同国は有史以来長年にわたって中国の支配を受けましたから、漢字がある程度使用されているだろうと思い込んでおりましたが、全くそうでなかったので意外でした。表示は全て一寸変わったアルファベットなのです。その理由を現地ガイドにも質問しましたし、帰国後も少し調べてみました。いうまでもなく国語は国の文化の根幹ですからきわめて重要なものです。そこでベトナムの場合を簡単に紹介して皆様のご参考に供したいと思います。

公用語はベトナム語ですが、この国は元々固有の文字を持ちませんでした。そして秦の時代以来長期にわたって中国の支配を受けましたので、文章語としては漢文が用いられました。具体的には、現代語についても辞書に載っている単語の70%以上が漢字語であるくらいですから、漢字を主体とし、対応する漢字がない語については漢字を応用した独自の文字チュノムを作り、それらを混ぜて用いました。

17世紀にカトリック教のフランス人宣教師がベトナムでの布教のために独特のアルファベット文字を考案し、それによってベトナム語を表現できるようにしました。それをクオック・グーと呼びます。

具体例として2つの単語を表記してみましょう。
    ベトナム  Việt Nam
    クオック・グー Quốc ngữ

18世紀にフランスがベトナムを植民地化しフランス語を公用語としましたが、クオック・グーを第二公用語として普及させましたので、漢字とチュノムの使用頻度は次第に減り、1954年ベトナム民主共和国(北ベトナム)の成立により、ベトナムの国字として漢字に代わりクオック・グーが正式に採択されたことで、漢字やチュノムは一般には使用されなくなりました。

クオック・グーは学習し易く、国民の識字率を向上させることに貢献しました。その反面、言葉の意味を理解しにくい、漢文で書かれた文章を読める人がほとんどいなくなったなどという弊害も生まれました。今回の旅行でベトナム北部を案内した現地の若い女性ガイドは、漢字を使用すれば言葉の意味を理解し易いのに残念ではあると言っていました。その状況は、日本語のローマ字表記が実施されていたらどうなっていたかを想像すればよく理解できるでしょう。

日本もベトナムと同様に固有の文字を持たず、漢文を用いて記録する他ありませんでしたが、幸いなことに、祖先が万葉仮名、続いてひらがなとカタカナを考案したお蔭で、独特の風土から生まれた微妙な感性と情緒をも文章で表現することができるようになりました。ひらがながなかったら例えば源氏物語は決して生まれなかったでしょう。

なお、国境を接しているがベトナムのようにカトリックの熱心な布教活動の対象とならなかったからでしょうか、クオック・グーに相当する表記が考案されなかったカンボジャとラオスでは、公用語のクメール語がクメール文字で、ラーオ語がラーオ文字でそれぞれ表記されております。

以上 (2016/12/08  鈴木 直久)

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コメント

  • 宮口 守弘 より:

    鈴木直久さん

    お元気でご活動の様子で何よりです。

    面白い切り口での表記の比較を興味深く拝読しました。中国語は仮名文字がないので会話の表現がストレートのような気がします。
     
    文中にもありましたが日本語は仮名での微妙なニュアンスと漢字での理解のしやすさなど日本語の良さを改めて認識する機会になりました。
                        12月9日 宮口記