名工大 D38 同窓会

名工大 D38 同窓会のホームページは、卒業後50年目の同窓会を記念して作成しました。

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前田・宮口・三山
京都にある宮内庁所管の庭園について

京都にある宮内庁所管の庭園について

はじめに

  京都には宮内庁所管の京都御所、仙洞御所、修学院離宮および桂離宮という、4つの参観可能な施設があります。宮内庁京都事務所のホームページから参観を簡単に申込むことができます。参観は無料です。それらの庭園を簡単に紹介しコメントを加えて参考に供したいと思います。

 

1. 京都御所

  有名な場所ですから参観された方も多数おられるでしょう。以前は春と秋の特別参観機関しか入ることができませんでしたから、現役時代の京都への社員旅行にその参観を組み込んだツアーで初めて訪れました。退職して大津に移住してからも2度訪れました。

 今年(2016年)7月から通年拝観できるように改められましたので、現在では他の箇所同様インターネットで参観申込みをすることができます。

  参観コースは多くの大きな建物を巡るように設定されていて、庭園(御池庭)についてはその西側に沿って歩くだけです。中に入ることができないので残念ですが、全体を眺めて立派な池泉回遊式庭園であることを確認できました。

 

2. 仙洞御所

 本年6月上旬に初めて訪れました。京都御所のある京都御苑の東南部に大きな敷地を占める、高く長い築地塀で囲まれた一角がそれです。 

  指定の時刻に門が開かれて入り、待合所で紹介ビデオを見てから、案内者を先頭にして列を作って定められたコースを歩きました。最後尾には警備員が付いて、参観者がコースから逸脱しないように監視しています。参観者は約30人で外国人が数名含まれていました。出発してから待合所に戻ってくるまでの所要時間は1時間強でした。これらの状況は他の箇所でも概ね同じです。

  この御所は、当初後水尾上皇のために造営された上皇が居住する仙洞御所(南)と上皇の妃が居住する大宮御所(北)の、隣接する2つの御所で構成されていましたが、大宮御所は焼失して両者の間の塀が取っ払われ、仙洞御所に併合されました。その建物もその後焼失して庭園のみが残されています。

 ところが元の大宮御所の地に1867年に孝明天皇皇后の御所として御常御殿が造営されたためにその部分は再び大宮御所と呼ばれています。御常御殿の外観は和風の御殿建築ですが、現在内部は洋式に改装されており、皇族と外国の王族が京都を訪れたときの宿泊所として使用されていることを知りました。

  さて庭園の参観です。長年桂離宮に勤務していたが定年が近づいて最近転任してきたという男の案内者は、桂離宮には紹介することが無数にあるがここは少ない、と言いました。公務員らしからぬ率直な発言ですが、正直な感想でしょう。

  庭園は、旧大宮御所の庭園であった北池と仙洞御所の南池の二つからなり、参観はそれらを巡って歩きます。池を取り巻く木々の多くは大木であり、それらも見どころの一つでしょう。庭園の設計には特別な趣向も斬新さも認められないようですが、おおらかかつ優雅な王朝趣味が感じられます。とはいえ細部には、説明を受けて驚く工夫がこらされています。例えば南池の州浜には、何万個もの、ほぼ同じ大きさの、純白の、丸い自然石が敷き詰められています。案内者は石の材料費を現代の貨幣価値に換算してみせました。

 という次第ですが、京都市内に無数にある寺の庭と比較して格段に大規模であり、ゆったりした気分に浸れますから、一度は訪れる価値があります。

 

3.修学院離宮

 

 本年六月下旬に訪れました。駐車場がなくまた近くに民営駐車場もありませんから、アクセスに少々難があります。わたしは少し離れた曼殊院の駐車場に車を入れて、そこから歩きました。

  離宮は後水尾上皇が比叡山麓に造営した広大な山荘です。約545千㎡の敷地に上・中・下の3つの離宮で構成され、いずれも数寄な趣向の茶庭亭などが、閑雅に巡らされた池の傍らに建ち、自然と建物の調和が絶妙とされています。この離宮の魅力は、何と言っても郊外の自然と調和した優美な雰囲気でしょう。

  各離宮の間には田畑(それも敷地の一部であり、地元の契約農家が耕作しています)が広がっており、離宮の間は細いあぜ道で結ばれていましたが、明治天皇の行幸に備えて、馬車で移動できるように拡幅するとともに両側に松の木が植えられました。手入れの行き届いた美しい松並木ですが、周囲の自然との調和を考えればあぜ道のままだった方が良かったと思います。

  最も規模が大きくかつ立派なのは上離宮です。ですからガイドブック類を飾っている写真は例外なくそこからの眺望です。邪魔をする障害物はなく市街地まで遠望できますから、その眺望は実に見事です。 

 なお、離宮とはいえ宿泊施設はないので天皇といえどもは御所から日帰りしていました。

 

4.桂離宮

  一昨年の12月に参観しました。敷地は桂川の右岸(西)の土手と国道9号(旧山陰道)を二辺とする広い土地です。そのためアクセスはやや不便ですが、その代り広い無料駐車場が付設されています。

  ブルーノ・タウトが書いた「日本美の再発見」(岩波新書)の中の、「永遠なるもの-桂離宮」の一部が高校の国語の教科書に収められていて強い感銘を受けました。それ以来およそ60年を経て初めて訪れたことになります。感無量でした。

  桂離宮は、建造物とその内装の素晴らしさでもよく知られていますから、御殿群の参観が許されていないのは残念です。しかし点在する小さな建物類の内部は、庭を巡る間に外から見ることができます。ですから松琴亭の白と藍との大胆なデザイン(現在は色褪せて対照効果が半減しています)で有名な床と襖を見ることができました。

  庭園の素晴らしさについてはタウトを始めとして多くの人々が説明していますから、素人の私見を加えることは遠慮したいと思います。小道の表面の材料、庭石、多くの橋と石灯籠の材質と形状、生垣(桂垣と呼ばれる竹垣は有名)などの細部に至るまで細心の工夫と神経が行き届いいていることがわたしにも分かりました。

 近くに山がないので借景と呼べるものはありませんが、その代り景観を損なうビル群などがありません。訪れたのが12月でしたから、マガモの群れが池に浮かんで、動くアクセントになっていました。

  残念だなと感じたことをあえて述べたいと思います。御殿群の西側に梅の馬場という芝生を敷き詰めた平らな空地があります。蹴鞠の庭と呼ばれた時代もあって、蹴鞠を楽しむ場所だったようです。だから仕方がないことなのですが、庭を巡ってそこに来ると、何か間の抜けたような感じを否めませんでした。

  ところで、前述した仙洞御所の案内者は、米国の雑誌の日本庭園日本庭園ランキングで、桂離宮が毎年2位であることを口惜しがっていました。毎年第1位の足立美術館(島根県安来市)には4年前に行きましたから、案内者の発言が身びいきの感情だけによるものではないことがよく理解できます。

  50位まであるそのランキングは、Sukiya Living / The Journal of Japanese Gardeningが毎年発表しています。足立美術館の庭園が高く評価される理由はよく分かります。美術館自体は大観の作品を多く所蔵することで知られていますが、その庭園について予備知識を持ちませんでしたから、ひと目見てまるで絵のように美しいと驚嘆しました。規模が大きいこと、樹木、岩、砂、池および滝などの構成要素が周到に配置されていること、借景がきちんと確保されていること(それらの山々も同館が所有する土地です)、完璧な状態に管理されていること(例えば、11本の樹木が設計どおりの形に剪定されていますし雑草などは見当たりません)などの諸々の条件を充たしています。それにもかかわらず、わたしは気持がその中に融け込めませんでした。美しさが外面的であり余情が足りないからだと思います。

 わたしはそのように感じましたが、それら二つの庭園は、上述したように、毎年1位と2位を維持し続けているのですから、優劣を議論することは全く無意味であり、他に抜きんでた2つの最高の日本庭園であると言うべきでしょう。

以上

2016924 鈴木直久

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コメント

  • 宮口 守弘 より:

     ホッパーの絵に引き続き庭園に関する投稿を拝読し、幅広い美術等関する知識に感心しました。
     
     残念ながら庭園に関し知識はありませんが京都にこのような庭園があることを紹介され,機会があれば出かけたいと思っています。

     この投稿欄で以前、山本信夫さんが東寺に関し投稿され、それを読んで昨年暮れ京都に行く機会があり訪れました。

                 (2016年10月3日 宮口守弘)

    • 鈴木直久 より:

      特殊なテーマなのにコメントまでしていただきありがとうございました。